実務上、しばしば「税務上は認められるが、会計上は認められない」というような言い方をされることがある。この「会計上は」「税務上は」という言い方は、「財務会計的には」「税務会計的には」と同義であるが、その意味することは何であろうか。
日本の会計制度は、立法趣旨の異なる3つの法律の上に成り立っている。具体的には会社法と金融商品取引法と税法だ。この状況を称して「トライアングル体制」などと言う人もいるが、要するに立場の異なる複数の法律が絡み合っているということである。
会社法と金融商品取引法に基づくのが財務会計だ。そこで想定している財務情報の利用者は、債権者、株主、投資家という資金提供者である。その目的を一言で言えば、「資金提供者の意思決定に役立つように、会社の経済的実態を忠実に描写すること」である。そこで重視されるのは合理性だ。
一方、税法に基づく税務会計の目的は、「お上がお上の思惑で民から年貢を徴収すること」だ。すべてはお上の思惑次第であるから、ルールは極めて政治的であり、毎年のようにコロコロ変わる。そこには合理性も継続性もない。
したがって、「税務上は認められるが、会計上は認められない」の意味するところは、「お上による税金徴収ルールには則っているが、会社の経済的実態は忠実に描写していない」ということだ。
会計上適正かどうかをチェックするのは監査法人(または公認会計士)の仕事だ。非上場で小規模な会社の場合、法定の監査義務がないこともあり、税法だけを意識した決算書を作成している会社も少なくない。そのような決算書では引当金はほとんど計上されておらず、減価償却費が恣意的にスキップされている場合もある。このような決算書は「税務上はOK」であるが、「会計上はダメ(立派な粉飾)」である。
会計上ダメな決算書を作っていながら、「ウチは税理士さんに見てもらっているから大丈夫」と思っている会社も少なくない。税理士は税務上の適法性はチェックするが、会計上の適正性までは必ずしもチェックしない。このような会社が上場を目指すと、決算内容に対して監査法人からダメ出しを喰らいまくる。自覚がないだけに、いざ上場という段になって大変な苦労を強いられることも珍しくない。