研究開発費

日本基準では、研究開発費は発生した期に全額費用処理することになっている。

1998年に「研究開発費等に係る会計基準」が制定されるまでは、各社まちまちに研究開発費を処理していた。全額費用処理する企業もあれば、長期前払費用などの無形固定資産に計上した後に償却するなどという処理も見られた。各社まちまちでは困るので、先の会計基準制定の運びとなったわけだ。そこでの最大の論点は、研究開発費は費用か資産かということである。

費用と資産は、一方はネガティブ、他方はポジティブと、相当イメージが違うかもしれないが、「お金を支出した」という点では全く同じ経済行為だ。両者の違いは、お金の支出が及ぶ効果の長さである。

概念的には、支出した期に効果が完結してしまう場合を費用、複数の期にわたって効果が及ぶ場合を資産という。「資産性」とか「資産計上能力」という言葉があるが、それは正に支出の効果が長期にわたるかどうかを言っているのである。

そう考えると、研究開発に関する支出は長期に効果が及びそうだ。しかし、本当に効果があるかどうかは分かりにくい。研究開発が成功するかどうか分からないからだ。この不確実性故に、研究開発費は全額発生時費用処理となったのである。「よく分からないから費用」というのもまた保守主義の発想だ。

IFRS(国際会計基準)は研究開発をひとくくりにせず、研究局面の支出と開発局面の支出に分けて考える。研究局面の支出は不確実性が高いので、日本基準同様、発生時費用処理だ。一方、開発局面の支出は実現に近付いているので、一概に不確実性が高いとは言い切れない。そこで、以下の6要件をすべて満たした場合は無形資産に計上することになっている。

  1. 無形資産を完成させ、これを使用または売却することが技術的に可能
  2. 無形資産を完成させ、これを使用または売却する意思を有している
  3. 無形資産を使用または売却する能力がある
  4. 無形資産が将来の経済的便益を創出することを示すことができる
  5. 開発完成のための技術上、財務上及びその他の資源を十分に有している
  6. 無形資産の開発局面に係る支出を信頼性をもって測定する能力を有している

これらの要件を満たすということは、要するに「成功して販売の可能性が高まった」ということだ。販売の可能性が高まったということは、将来キャッシュを増加させるポテンシャルが高まったということなので、資産に計上するということである。

資産に計上した後は、その他の無形資産と同様、減価償却によって費用化される。