保守主義の原則

保守主義の原則は、会計基準の根底に流れる原理原則の1つである。

保守主義の原則とは、「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。」という原則である。

損益計算書について具体的に言えば、「収益はできるだけ遅く金額は少なく、費用はできるだけ早く金額は多く計上する」ことを奨励する考え方である。貸借対照表について具体的に言えば、「資産はできるだけ少なく、負債はできるだけ多く計上する」ことを奨励する考え方である。

これらは常にそうしろということではなく、あくまでも「「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合」にそうすることが奨励されるということである。

保守主義の原則とは、要するに、「(収益や資産という)グッド・ニュースより、(費用や負債という)バッド・ニュースを積極的・早期に開示しなさい」ということだ。

会計情報を利用する投資家や経営者にとってバラ色のグッド・ニュースもいいが、それも度が過ぎると戦時中の大本営発表のようになってしまう。それよりもむしろ、バッド・ニュースの方を積極的・早期に開示してもらった方が、会計情報を用いて意思決定する者にとっては有用だろう。そのような考えから、バッド・ニュースの方をより積極的に計上させるのである。

保守主義の原則は、会計基準の至る所に反映されている。たとえば、棚卸資産における低価法や、有価証券の減損固定資産の減損など、価額が下落したときだけそこまで切り下げる処理はいずれも保守主義の原則が理論的根拠になっている。また、費用が顕在化したわけでもないのに、その発生可能性が高い場合に前倒しで費用計上を求める引当金も、保守主義の原則が理論的根拠の1つである。

なお、IFRS(国際会計基準)においては、prudence(慎重性)という似た考えがあるが、それはあくまでも「将来の変動を慎重に見積れ」ということであっても、費用の早期・過大計上を容認するような考え方はない。prudenceをもって「保守主義」と言う人もいるが、日本的な保守主義とは同じではない。